神戸市北区谷上駅。
谷上駅は神戸市中心部に近い湊川駅と有馬温泉を結ぶ神戸電鉄有馬線の途中駅でしたが、
戦後有馬線沿線の開発が進み混雑が激しくなったことから、
昭和63年にそのバイパスルートとして谷上駅を始発駅とする北神急行線が開業。
現在の谷上駅舎はそのときに建設されたものです。
北神急行線は従来の神戸電鉄有馬線経由で約40分かかっていた谷上~三宮を10分に短縮する画期的な路線でしたが、
六甲山系を貫く約7kmのトンネル鉄道で建設費が嵩んだことから、運賃を高めに設定せざるを得なかったうえ、
三宮へ向かう場合、列車は直通するものの新神戸からは神戸市営地下鉄区間となるため、
例えば有馬線の終点有馬温泉から北神急行線ルートで三宮へ向かう場合、
有馬温泉から谷上までの神戸電鉄運賃、谷上から新神戸までの北神急行運賃、新神戸から三宮までの神戸市営地下鉄運賃の合算額が必要となり、
有馬温泉など谷上以北の神戸電鉄沿線から三宮までの運賃は1000円を超えることも珍しくない状況でした。
そのため遠回り承知で従来の神戸電鉄有馬線ルートを使う客が少なくなく、
また北神急行開業以後、有馬線沿線の開発が当初の予想ほどは進まなかったことから、
北神急行の利用は伸び悩み、経営は行き詰まっていました。
そのような状況で2020年6月1日より、
北神急行線と新神戸で接続する神戸市営地下鉄に編入されるような形で、
北神急行線区間の神戸市営化が実施されることになりました。
谷上駅改札口付近。
谷上駅の運賃表。
北神急行線当時は谷上~新神戸間の運賃に、その先三宮までは神戸市営地下鉄運賃を合わせ550円となっていましたが、
これが全線神戸市営地下鉄化されたことで280円と約半額に値下げされることになりました。
こちらは神戸市営地下鉄「三宮駅」の運賃表です。
値下げにより谷上乗り換えで三宮から有馬温泉までの運賃は680円となりましたが、これは、
(写真・阪神電鉄神戸三宮駅の運賃表)
従来は谷上乗り換えより「時間はかかるが安い」とされた神戸電鉄ルートの720円を下回っていることがわかります。
今回の北神急行市営化について「三宮~谷上の運賃が半額になる」とマスコミなどでも報道されていますが、
その本質的な意義は、この三宮~神戸電鉄有馬線・三田線方面での運賃逆転にあると言って差し支えなさそうです。
谷上駅の時刻表を見比べると神戸電鉄有馬線は日中15分毎、朝ラッシュ時約5分毎であるのに対して、
北神急行線改め、神戸市営地下鉄線は日中15分毎、朝ラッシュ時8~9分毎の運転となっています。
神戸電鉄の4両編成に対し神戸市営地下鉄は6両編成であり、車両サイズにも差があるため、朝ラッシュ時の輸送能力に大きな差はありません。
なお神戸市は今回の市営化で30%の利用者増加を見込んでいるとの報道もありますが、北神急行線の輸送能力に余裕があったこともあり市営化に際してダイヤ改正は行われていません。
改札を抜け3・4番線ホームにあがると15:41発の神戸市営地下鉄西神中央行が発車を待っていました。
神戸市営地下鉄車両の緑に対し茶色の帯を巻いた車両は北神急行電鉄開業に際し、同社の車両として運転を開始したものです。
ただ北神急行開業当初から両社は直通運転を行っているため、運賃面では劇的な変化を生んだ今回の市営化も運転面ではほとんど変化がありません。
しばらくして三田・有馬方面から神戸電鉄の列車が到着。
同じホームに並んで停車すると、神戸電鉄(右)から神戸市営地下鉄(左)へ、まとまった数の乗り換えがみられました。
三田・有馬方面から三宮までの運賃がほぼ同じあるいは逆転した今、三宮に関しては神戸電鉄経由で向かう理由はほぼなくなりましたが、
神戸電鉄沿線の鈴蘭台方面へむかうと思われる乗客など1両に10人程度は乗り換えず神戸電鉄車内に残っていました。
15:40。先に神戸電鉄が発車し、1分後神戸市営地下鉄も西神中央に向けて発車していきました。
ちなみに地下鉄の三宮到着は15:51ですが
先に発車した神戸電鉄の場合、終点新開地で乗り換えて三宮に到着するのは16:20となります。
間もなく入線してきた次発15:56発の西神中央行に乗車して三宮へ向かいます。
車両は神戸市営地下鉄の最新型6000系です。
今後新たに神戸市営地下鉄車両となった先程の茶色の元北神急行車両を含む、
神戸市営地下鉄全車両がこの6000系の置き換えられる予定になっています。(海岸線車両を除く)
6000系車内の吊り広告。
谷上駅周辺の神戸市バスの路線の改変を告げる内容です。
谷上駅前で発車時刻を待つ神戸市バス車両。
今回の市営化による値下げにより、谷上以北の神戸電鉄(有馬線やその先の三田線)の駅から三宮へむかう乗客の神戸電鉄から神戸市営地下鉄への乗り換えが促進されることは間違いありませんが、
注目すべきは、神戸電鉄ルートで谷上駅より三宮(新開地)に近い位置にある駅から
「谷上まで逆行して神戸市営地下鉄(北神急行ルート)に乗車する流れをどれだけ作り出せるか」ではないでしょうか。
先述の30%増加という見通しも「逆行需要」を見込んだ数値と思われます。
谷上駅前にあったバス路線図。
30系統は谷上駅の2駅三宮(新開地)寄りの山の街駅から住宅地を通って谷上駅に至るルートになっています。
山の街駅から三宮までの運賃は神戸電鉄ルートで570円ですが、今回の値下げにより谷上まで逆行した場合520円となっており、
山の街駅まで徒歩でアクセスし神戸電鉄で三宮へ向かっていた乗客が谷上逆行ルートに切り替える可能性がありますが、
バスで山の街駅へ向かっていた乗客の場合、そのバス停から谷上駅までバスで出られれば、非常に大きなメリットになります。(バスの運賃が均一200円なら770円から480円への値下げ)
吊り広告の路線改変の詳細も、そうした需要を狙い谷上駅乗り入れの路線を増やす内容になっていました。
15:56。神戸電鉄からの乗り換えを受け、定刻に谷上駅を発車。
列車は谷上駅を発車するとすぐに山岳トンネルに入ります。
このトンネルは神戸市営地下鉄の地下トンネルに繋がっており、
次に列車が地上に顔を出すのはおよそ30分後の妙法寺駅付近となります。
トンネル内は新神戸に向けて33‰の連続下り勾配となっています。。
谷上駅の標高は244メートルありますが、今回神戸市営地下鉄の駅となったことで、地下鉄の駅としては日本一標高の高い駅となります。
元々、神戸市営地下鉄の総合運動公園駅が「日本一」の期間が長かったのですが、
2016年に開業した仙台市営地下鉄東西線の八木山動物公園駅に僅差で抜かれていました。
両駅の標高はともに100メートル程度であり、今度はそう簡単に抜かれることはなさそうです。
約8分間で六甲山系の下をくぐり新神戸に到着。
市営化された谷上~新神戸の運転業務は神戸電鉄に委託されているため、北神急行時代と変わらず、ここで乗務員が交代する光景が今後もみられます。
神戸電鉄への委託には経営的に影響を受けることへの補償的な意味合いがあると思いますが、
「元北神急行区間の運転業務を受託することになったから神戸電鉄も安泰」という印象は個人的にはもっていません。
日中は谷上始発の列車の間に新神戸始発の列車が1本が入るダイヤになっており、ホーム反対側では次発の西神中央行が発車を待っています。
新神戸から2分。
16:06に三宮駅到着。
大阪方面へはここで阪神電鉄・阪急電鉄・JR神戸線に乗り換えとなります。
地下鉄三宮駅コンコース。
乗り継ぎに関しては、地下で繋がるのは阪神電鉄の神戸三宮駅ですが、
平行移動の距離ではJR三ノ宮駅が近く、大阪までの所要時間もJRの新快速が最も短いことから、
朝ラッシュ時には地下鉄駅からJR改札口に向かう人の流れが途絶えることがありません。
なお神戸電鉄の有馬・三田方面から阪神電鉄・阪急電鉄の大阪方面の駅へ向かう場合に限れば、
谷上駅で乗り換えずに神戸電鉄ルートで新開地駅まで行って乗り換えると、
乗り換えの回数が1回で済み、乗り換え自体も楽ですが、
時間が30分余計にかかるうえ、今回運賃も逆転したため今後そのような選択をする人がどれだけいるかは未知数です。
現時点では、今回の北神急行市営化によって運賃以外で目に見えた動きがあったのは谷上駅周辺のバス路線だけのようですが、
今後値下げ後の需要動向にあわせたダイヤ改正などが実施されるものと思われます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
投稿予定だった水島臨海鉄道の記事は近日中に投稿する予定です。