JR西日本山陰本線益田駅。
益田は島根県の西端に位置する人口5万の都市で、鉄道では山陰本線と山口線の分岐点となっています。
駅舎こそ小さいものの近年再開発された駅前にはホテルやマンションが並び都会的な様相となっています。
さて今回は、2022年3月のダイヤ改正で廃止された山陰本線の益田〜米子間(写真路線図のオレンジ色の区間)の快速列車アクアライナーに、廃止直前に惜別乗車した際の乗車記となります。
##本記事中の意見、提案に類する記載は、あくまで一鉄道ファン、一乗客として感じたこと、考えたことを述べているだけですので、その点ご了承下さい。##
益田駅の山陰本線時刻表。
右が米子方面で、赤字が特急列車、オレンジで記された9:10、11:14、17:02の3本が快速アクアライナーです。
山陰本線の益田〜米子間を走る特急列車や快速アクアライナーの停車駅は列車毎に異なっており、時刻表の下段には各列車の停車駅一覧がありました。
今回乗車したのは益田11:14発の快速アクアライナー米子行です。
益田駅3番線で発車を待つ快速アクアライナー。キハ126系2両編成。
快速アクアライナーの運転区間である山陰本線の益田〜米子間は、ほとんどが島根県に属しており、同区間では1999年から2001年にかけ、主として島根県が出資する高速化事業が施工されました。
高速化事業のメニューには、軌道の改良だけでなく、その効果をより高めるため、快速列車向けのキハ126系と特急列車向けのキハ187系の導入も含まれており、
快速アクアライナーは、今回の廃止に至るまで全列車がその際に導入されたキハ126系で運転されました。
キハ126系車内。
暖色系の内装に4人掛けのボックスシートが並びます。
車端部はロングシート。
ボックスシートはシートピッチに余裕があり、比較的新しいJR型車両でありながら、どこか国鉄急行型気動車の車内を彷彿とさせます。
11:14。2両合わせても10人に届かない乗客を乗せ、益田を定刻に発車。
快速アクアライナーの中には益田〜浜田間が各駅停車となる便もありますが、
乗車便については出雲市までの全区間が快速運転となっており、つぎの停車駅は岡見。
益田の市街地を抜けると間もなく日本海の海岸線に出ました。
時速約40kmまで減速して駅を通過中。
先述の高速化事業では、通過列車が減速を必要としないよう、多くの駅で分岐器の交換、改良が施工されましたが、
駅が曲線に隣接していて、その曲線でどのみち減速が必要な場合は改良の対象から外すなど、費用対効果が強く意識されたようです。
11:30岡見着。
益田から16.9km、時刻表上の所要時間17分、平均時速は60kmと計算されます。
岡見からは11:37三保三隅、11:43折居と連続停車。
その先も江津まで途中8駅のうち5駅に停車します。
益田から次の主要駅である浜田までの各駅の利用者数について調べてみると、
コロナ前の数値で以下のようになっています。
益田500人
石見津田16人
鎌手18人
岡見34人
三保三隅106人
折居8人
周布92人
西浜田156人
浜田692人
9駅合計1622人。
中間の7駅計は430人ですが、そのうち三保三隅、周布、西浜田の3駅で354人を占めています。
今回の改正では比較的利用が多い駅に選択停車する快速列車が廃止され、
利用者数にかかわらず全駅に停車するかわりに所要時間が長い普通列車が残された格好ですが、
山陰本線の島根県西部区間のように、輸送密度は低くても、
特急列車や快速列車が運行される幹線で、
過去に高速化の投資もなされていて、
並行高速道路の延伸が進んでいるような路線では、
合理化策として、普通列車を廃止して快速を残す。という方法もあったのではないか。という思いがあります。
もっとも、JRがそのような改革を実行しようとすれば「停車列車がなくなる駅」の利用者の利益を代表する形で、地元自治体からの異議申し立てがなされるかも知れません。
しかし人口減少時代を迎えた自治体にとっても、全員が市の中心部とまではいかなくても、快速停車駅のような一定の拠点周辺への集住が進むほうが、
長期的には効率の良い行政が可能になり、最終的には地域住民の利益になるとも考えられます。
北陸地方にはそのような方針を公言し様々な施策を進めている自治体もあるようです。
西浜田に停車し対向の普通列車と行き違い。
この付近の山陰本線普通列車の多くは写真の閑散路線向けキハ120系が使われています。
快速アクアライナーに使われてきたキハ126系は、先述のように地元負担主体の高速化事業の一部として投入されており、他の地方への転属は難しいかも知れません。
そうなると快速アクアライナー廃止後は普通列車に転用され、玉突き転配で経年が高いキハ120系の廃止が始まるのか?など興味は尽きません。
列車は益田より一回り大きい浜田市の市街地に入ります。
11:58浜田着。
古くからの市街地が広がる内陸側とは反対の海側は、駅の橋上化で利便性が向上して以降、
病院や集合住宅のほか某ホテルも進出し新市街地の様相を呈しています。
浜田は島根県内では出雲市以西で最大の都市であり、駅の利用者数も同様ですが、
昼間の快速アクアライナーへの乗車は少なく、空のボックスが目立ったまま発車時刻を迎えました。
12:03。下府に停車。
利用者数の少ない駅でも、歴史ある大幹線に属するだけに、駅施設の規模は大きく、見た目には頼もしいものの、
経営的にはその管理が重荷になっているのではないでしようか。
12:11。波子に停車。
新調された駅舎の横には駅から徒歩圏内の「しまね海洋館アクアス」の看板が建てられています。
波子駅を出てしばらく、車窓には石州瓦の家並みと日本海を見下ろす、この地方らしい美しい光景が広がります。
駅看板にあった「アクアス」の塔が存在感を放っていますが、景観という点では賛否があるかもしれません。
車内のトイレに立ったついでに後方の運転台を覗くと、軽くブレーキがかかってもなお速度計の針は約90km付近を指していました。
列車は江津の市街地に進入。
12:22江津着。
ここでは乗車よりも下車が目立ちました。
乗客が少ない中でも、県都松江方面への長距離利用だけでなく、
益田〜浜田間や浜田〜江津間などの都市間利用が見られることは、今回の快速列車廃止と絡めて無視できない事実であるように思われます。
江津発車後、江津市街地から日本海へ注ぐ江の川の鉄橋を通過。
12:38。温泉津着。読みは「ゆのつ」です。
駅前に立つ温泉津温泉のゲートの向こうには温泉街が広がります。
大田市駅手前。
徒歩でアクセスできそうな距離にイオンが見えましたが、
ここに駅があれば利便性が増し云々。という議論は、もう少し輸送密度が高く列車本数のある区間でなければ成立しないのかも知れません。
12:58大田市着。
大田市駅は2007年に世界遺産登録された石見銀山の玄関となる駅で、駅前からバスで約30分の距離ですが、
駅の乗車人員数はコロナ前の2019年で465人。
世界遺産登録も山陰本線高速化もほぼ関係なくコンスタントに減少を続けています。
大田市から出雲市にかけて再び日本海の海岸線を快走。
出雲市の一つ手前の西出雲駅を通過。
駅に隣接して車両基地があり、特急やくも号やサンライズ出雲号が留置されています。
これらの車両の出入りのため西出雲駅〜出雲市間は電化されています。
大田市から32.6kmを28分で走り、13:28出雲市に到着。
3分後の13:31に発車する岡山行の特急やくも20号に同じホームで乗り換えることができます。
快速アクアライナーの快速運転区間はここまでで、出雲市から先終点米子までは各駅に停車します。
なお益田から出雲市まで130kmに要した時間は2時間14分。
駅停車時間も含めた平均時速はほぼ60kmと単線非電化路線の快速列車としてはかなり早く、高速化事業施工前の特急に匹敵するレベルとなっています。
やくも20号を先に通し、
13:34。出雲市を発車。
しばらく山陰地方唯一の私鉄である一畑電鉄との並行します。
13:53宍道駅着。
向かいのホームには14:00発の木次線備後落合行が停車中です。
木次線は陰陽連絡線の一つに数えられる路線で島根県と広島県を結ぶ鉄道ルートの一部となっていますが、実質的にその連絡機能を喪失しており、
停車中の列車から備後落合、三次と乗り継いで広島まで行くと到着は約7時間後の20:56となります。
なお島根県の県庁所在地松江と広島を結ぶ高速バスの所要時間は高速道路の延伸で3時間まで短縮されており、
島根県と広島県の行き来自体は以前よりむしろ増えているようです。
宍道駅を発車し、宍道湖の湖岸を走行するうち湖畔に開ける松江市の市街地が近づいてきました。
14:16。益田から約3時間。浜田から2時間16分で松江に到着。
松江では15分の停車時間があり、その間に益田を乗車しているアクアライナーの約1時間後に発車した特急スーパーまつかぜ10号が到着。先発していくダイヤになっています。
14:25。向かいのホームに到着した特急スーパーまつかぜ10号鳥取行。
特急列車に続いて松江を発車。米子への最終区間に踏み出します。
松江と米子のほぼ中間、荒島駅で下りのアクアライナーと行き違い。
安来駅に到着。
この駅までが島根県に位置し、列車は終点米子駅までの最後の一駅間で県境を越え鳥取県に入ります。
松江からの最終区間。
車内は出雲市付近からようやくワンボックスに1人程度の乗車率となりました。
15:08。終点米子に到着。
出雲市からの各駅停車区間61.6kmに要した時間は1時間34分、益田からだと191.5kmで3時間54分の長旅となりました。
今回の乗車体験だけでものを言えば列車廃止もやむなし。という気もしますが、
過去の高速化事業や特急が運転され今も幹線としての機能が残っていることなどを考えると、
今回の快速廃止は、長期的に見れば2019年の三江線廃止や、コロナ後の木次線廃止議論以上の大事ではないか。という気もします。
乗車記中で述べた普通列車廃止が難しければ、JRが施設保有のうえ優等列車を運行し、
普通列車のみ停車する駅の管理と普通列車の運行経費を地元が負担するなど、逆上下分離的な手法も、島根県西部の山陰本線のような「幹線ローカル線」の合理化策として考えられるのではないでしょうか。
国鉄以来の存在感のあった米子駅舎は解体され現在の米子駅は元の駅舎脇のにあった建物で仮営業中です。
最後までお読みいただきありがとうございました。