JR東海名古屋駅。今回はここから特急しなの号に乗車し長野へ向かいます。
名古屋駅改札口前掲示の在来線特急のりば案内。
松本、長野方面へ向かう特急しなの号は概ね1時間毎の00分発車で、運転本数、利用者数などの面から見ても名古屋発の在来線特急列車の代表格と言って良さそうです。
改札口を抜け10番線ホームへ。
今回は名古屋駅12:00発の11号に乗車します。
11:48。岐阜方から入線した特急しなの11号の編成。
本日はパノラマグリーン車を先頭にした383系6両編成での運転です。
今回はパノラマグリーン車の一番前の前面展望席を確保しました。
グリーン車は2列✕2列の横4列。
JRの在来線特急グリーン車は横3列のものも珍しくないので、それらに比べるとやや見劣りがするかも知れませんが、
シートピッチは1200mmと標準より広く、シートもグリーン車らしい重厚なものです。
最前列の座席は、名古屋発の場合左側が1番AB、右側が1番CDとなります。
AB席は運転席に視界を遮られるのでCD席の方がオススメです。
1番D席からの眺め。
グリーン車が横4列となっている背景には、特急しなの号のグリーン車需要が少なくないことも背景にあると思いますが、
今回は10人程度の空いた状態で発車時刻を迎えました。
12:00定刻に名古屋駅を発車した特急しなの11号は、東海道新幹線、東海道線、名鉄と並んで東へ向かい、2駅目の金山通過後に左にカーブして中央本線長野方面に進路をとります。
中央本線単独の複線区間に入った列車は、次の停車駅千種まで名古屋市の中心部を進みます。
この区間は長野への旅の助走区間といったイメージですが、運転台の速度計を覗くと120kmに達しており、すでに特急らしい高速運転が始まっています。
12:06千種に停車。
名古屋市営地下鉄のメインライン東山線との乗り換えができる駅ですが、東山線は名古屋駅にも乗り入れています。
旅行者の視点では、名古屋駅に入らない名城線や、名鉄との乗り換えが容易な金山に停めるほうが便利なのではないか。という気もします。
千種発車後もしばらく市街地がつづき、大曽根、勝川といった乗り換え駅も高速で通過していきます。
中央本線名古屋口の列車本数は特急しなの号を除いても、高蔵寺まで毎時快速3本、普通5本と多く、展望席に座っていると頻繁に対向列車が迫ってきます。
神領駅手前、神領車両区の脇を時速120kmで通過。
卸したての新型通勤車両315系の姿が見えました。
岡崎方面への愛知環状鉄道の高架線が分岐する 高蔵寺駅を通過。
先述の普通列車5本のうち3本はこの駅で折り返しとなり、名古屋の都市圏はここで一区切りという印象です。
定光寺駅を通過。
高蔵寺を過ぎると車窓は一変、これから向かう木曽路の山間を思わせる風景の中を進みます。
この付近で列車は愛知県を抜け岐阜県に入ります。
再び眼前に大都市近郊の市街地が広がると、
13:22多治見に到着。
中央本線のうち中央西線と称される名古屋〜塩尻間は高度成長期に電化複線化が順次進めらました。
多治見から先の写真の付近は昭和41年3月に複線化されていますが、
複線化時に下り線として使用されているトンネルが新設され、単線時代は山を迂回する右側の線路を使用していたのでしょう。
時代を下るにつれ土木技術が向上した様子だけでなく、複線トンネルの新設とならなかったあたりに、高度成長期に路線の近代化を急いだ様子も垣間見えます。
特急しなの号の最高時速は130km。
1973年に特急しなの号に投入された先代の381系は120kmでしたが、現在の383系への置き換えに際し10km向上しました。
しかし中央本線のようにカーブが連続する線区では最高速度だけを向上させても、必ずしも所要時間の短縮に結びつかない場合もあります。
右に大きくカーブする場面。
小さく写り込んでいる運転台の速度計は120km付近を指しています。
列車の曲線通過速度は、曲線半径などを基準に細かく定められており、その速度のことを本則と言いますが、
振子装置など曲線通過に対して特段の装備を備えている車両などは、本則を上回る速度で曲線を通過することが認められています。
現在、特急しなの号として運転されている383系は、曲線の手前から徐々に車体を傾ける制御振子を搭載しており、半径600m以上のカーブでは本則+35kmでの通過が許容されています。
なお1996年まで定期列車の特急しなの号として運転されていた先述の381系も、自然振子式を採用していましたが、同等の曲線半径で本則+20km。
381系から383系への置き換えに際し名古屋〜松本、長野間の所要時間が10分程短縮されましたが、
所要時間短縮への貢献という点では、最高速度の向上よりも、本則からの上乗せ分拡大の方が大きかったはずです。
下り勾配の先に広がる恵那駅周辺の市街地。
恵那駅は第3セクター鉄道の明智鉄道との乗り換え駅で特急しなの号も一部の列車が停車します。
12:48中津川に到着。
ホーム反対側に停車中のオレンジの313系は、名古屋〜中津川間で運転されていた座席定員制(座席定員まで発行されるライナー券を別購入して乗車)の快速列車セントラルライナー向けに登場した車両です。
名古屋駅からの主要路線を見ると東海道線は豊橋方面、岐阜方面とも名鉄と競合、関西本線四日市方面は近鉄と競合しているのに対し、
中央本線は競合路線がなく、追加料金が必要な快速列車登場の背景にはそうした事情もあると言われていましたが、
セン(銭)トラレルライナーの異名まであったようで乗車率は芳しくなく2013年に廃止。現在車両は通常の313系と混用されています。
外観の塗装だけでなく内装も多少快適な仕様になっているので、名古屋口の中央本線では当たり車両と言えそうです。
中津川を発車してしばらく、長野からの特急しなの10号と行き違い。
特急しなの号の編成は長野寄りの先頭車が乗車中のパノラマグリーン車、名古屋寄りの先頭車は写真の対向列車のように他の車両と連結可能な非パノラマの普通車というのがノーマルの姿ですが、
増結や車両運用の関係で長野寄りの先頭車がパノラマタイプではないグリーン車となることがあります。
日によってパノラマグリーン車が連結されるか否かは、時刻表やJR東海のホームページでも知ることができません。
今回も運悪く非パノラマのグリーン車になる可能性があることを承知で、パノラマ車両の場合に展望が良い席を早々に購入していました。
13:00南木曽駅通過。タンク車両を連ねた貨物列車と行き違い。
列車は一つ手前の田立駅から長野県に入っています。
海に面さない長野県は石油燃料を陸上輸送で搬入していますが、
中央本線に並行する高速道路中央自動車道には延長が5kmを超え危険物積載車両が通れないトンネルが存在することから、その輸送の主役は今でも貨物列車が担っています。
長野県区間に入ると、しだいに木曽路らしい山間の風景が前方に展開するようになります。
十二兼駅で名古屋から続いた複線区間は終了。
この先終点の長野まで単線区間と複線区間が頻繁に入れ替わります。
11月の木曽路は冠雪した高山と沿線の紅葉の対比が美しく、車窓を見ていて飽きることがありませんが、
木曽川が開いた谷間を駆け抜けていく、この区間らしい車窓を楽しむなら、進行方向左手の座席を選択するほうがよいかも知れません。
13:25。木曽福島駅に到着。
左手に見える山小屋風の三角屋根が特徴の駅で
標高は約800m。
木曽福島を発車して25分。列車は塩尻駅に接近。
塩尻駅は名古屋を東京を結ぶ中央本線の中間駅であり、写真右手の線路が東京方面にのびています。
かつては塩尻駅も右手方向(東京方)に存在したため、名古屋方面から松本長野方面へは塩尻駅で進行方向を変え写真左手方向へ向かう必要がありましたが、
塩尻と岡谷を直線的に結ぶ塩嶺トンネル開通を翌年に控えた昭和57年、線形改良により塩尻駅は写真左手に移転しました。
左カーブで東京新宿方面からの線路と並んて塩尻駅に進入。
この移転改良により、塩尻駅は東京新宿方面と名古屋方面から松本長野方面へ向かう列車が、同じ方向から進入する構造となり、どちらから来ても進行方向転換は必要なくなつた一方、
かつての塩尻駅を経由する線路も残され、東京方面と名古屋方面を直結する短絡線的な機能を担っています。
13:52塩尻駅に停車。
塩尻はJR東海とJR東日本の境界駅です。
特急しなの号は2分停車の間にJR東海からJR東日本の乗務員さんに引き継がれます。
13:54塩尻駅を発車。
列車は東京方面へ向かう中央本線と別れ、この先、終点長野手前の篠ノ井までJR東日本篠ノ井線を走行します。
篠ノ井線に入った列車は松本平野に延びる直線区間を快走。
対向の名古屋行特急しなの14号と200km以上の相対速度で行き違います。
14:03。塩尻から9分、名古屋から約2時間で松本駅に到着。
名古屋からの乗客の多くが下車する一方、松本から長野への長野県内移動のため、ここからの利用も少なくありません。
松本を発車した列車はしばらく日本海側の糸魚川へ抜ける大糸線との単線並列区間を走行。
大糸線と別れた篠ノ井線はしばらく奈良井川を左にみながら進みます。
川は列車の進行方向に流れており、千曲川に合流したのち、最後は新潟市から日本海へ注ぎます。
篠ノ井線の明科〜西条間は、1988年に地滑り地帯を通っていた旧線から、トンネル主体の新線に切り替えられ、防災面の強化だけでなく、直線的な短絡ルートとなったことで特急列車の所要時間が2分短縮されました。
当初は複線化も視野に入っておりトンネルも複線分の断面となっていますが、
建設中の国鉄財政悪化などから、JR化後に単線で開通。今のところ複線化の具体的な予定はありません。
聖高原駅で運転停車し特急しなの16号と行き違い。
名古屋発車直後に6号と行き違ってから6本目の特急しなの号同士の行き違いですが、
特急同士の行き違いは極力複線区間で行われるようダイヤが工夫されているようで、運転停車を伴う行き違いは、ここ1箇所のみでした。
スイッチバック駅として知られる姨捨駅を通過。
木曽の山中では進行方向左側のほうが眺めが良い一方、姨捨駅周辺では進行方向右側に善光寺平とその真ん中を流れる千曲川の雄大な風景を眺めることができます。
列車は下り勾配を進み、姨捨駅付近で見下ろした善光寺平の平坦区間へ。
間もなく篠ノ井に到着します。
14:47。篠ノ井に停車。
奥のホームに見える仕切りの向こうには、北陸新幹線の軌道が在来線と同じ高さで通っていますが、駅はなく、ここから東京方面へ向かう場合は長野まで逆行するか、しなの鉄道で上田まで向かう必要があります。
篠ノ井から終点長野の間は信越本線区間となります。
いまではJRに乗り入れる形となっている第3セクターしなの鉄道ですが、そのルーツはJR東日本信越本線であり、
1997年の北陸新幹線開通までは特急しなの号を含め篠ノ井線松本方面からの列車が、この区間の信越本線に乗り入れるイメージでした。
現在でも列車本数や通過人員数では、しなの鉄道方面のほうが多いのではないでしょうか。
篠ノ井から並行してきた北陸新幹線と並んで終点の長野駅に進入。
14:56。名古屋から約3時間。終点の長野に到着しました。
下車前に普通車内を撮影。
20年以上前の1995年に登場した車両とあってコンセントなどはありませんが、シートピッチは1000mmとJR在来線特急の普通車としては一部の改造車両やグリーン車流用のものを除いて最も広く、快適性はこちらでも申し分なさそうです。
左側が名古屋から乗車してきた特急しなの11号。
ホーム反対側からは長野15:00発の特急しなの18号名古屋行が間もなく発車します。
3大都市に数えられる大都会名古屋と北海道と並ぶ雄大な自然が広がる長野県を直結する特急しなの号は、乗車時間も適当かつ車窓も秀逸であり、数あるJR在来線特急のなかでも特に魅力のある列車ではないでしょうか。
北陸新幹線金沢開通にあわせリニューアルされた長野駅善光寺口周辺の賑わい。
最後までお読みいただきありがとうございました。