愛媛県宇和島市。JR四国宇和島駅。
今回はここから予土線経由の列車で高知県の窪川へ向かいます。
乗車するのは宇和島6:04発の窪川行です。
発車表示の種別欄には普通ホビートレインとあります。
3番線で発車を待つホビートレイン。
ホビートレインは昭和39年の東海道新幹線開業時から平成20年の山陽新幹線区間での引退まで、44年にわたり活躍した0系新幹線に似せて改造されたディーゼルカーの愛称です。
臨時列車ではなく地元利用もある定期列車での運行ということもあってか車内の大半はロングシートですが、
一部はショーケースが設置され、四国で活躍した車両やHOサイズの新幹線車両の模型が展示されているほか、
車内の窪川寄りには0系新幹線の普通車で使われていた転換クロスシートが配置されています。
このシートは乗車記念の撮影などに使うことが想定されているようですが、空いていれば自由に掛けることができます。(窪川駅到着後撮影)
6:04。定刻に宇和島駅を発車。次の北宇和島までは予讃線を走ります。
北宇和島駅を発車すると予讃線から右手方向に分岐し予土線に入ります。
予土線は四国の南西部、愛媛県宇和島市の北宇和島駅から高知県高岡郡四万十町の若井駅に至る76.3kmの路線です。
予土線を走る列車は途中で折り返すものを除いて、宇和島〜北宇和島間でJR予讃線に、若井〜窪川間で土佐くろしお鉄道に乗り入れ、宇和島〜窪川を直通します。
宇和島〜窪川間の所要時間は2時間〜2時間半程度となっています。
北宇和島駅から予土線に入ると次の務田駅まで約6kmにわたり急勾配、急曲線が連続します。
予土線のうち宇和島に近い北宇和島〜吉野生間は、大正時代に軽便鉄道として開業した(一部後年に経路変更)経緯があり、線形は悪く高速運転には全く適していません。
勾配を登る列車の速度は30km程度。
宇和島周辺ではルートの優位もあり並行する路線バスの方が所要時間が短い状況にあります。
務田駅からは田園地帯の中を進みます。
この付近は宇和島まで10km〜15kmの言わば宇和島近郊区間であり、駅前に小さな市街地が形成されている駅もあります。
大内駅。
予土線はJR四国の中でも特に利用が少ない線区で、輸送密度はコロナ前の数値で約300人。
宇和島近郊区間はその予土線の中では比較的利用がある区間です。
列車の運転本数も利用実態を反映しており、宇和島から7駅目の近永駅までは10.5往復ありますが、その先江川崎まで7.5往復、江川崎以南は4往復となります。
6:50。松丸駅に停車。
駅は松野町ふれあい交流館と一体になっており、2階は「森の国ぽっぽ温泉」という温泉施設が入っています。
また川向いの国道381号には、道の駅「虹の森公園まつの」もあり、
予土線の駅から徒歩で観光するならこの駅が一番かもしれません。
6:54。吉野生駅で2分停車しキハ54形で運転の宇和島行始発列車と行き違い。
この列車の宇和島着は8:02。江川崎で行き違う次の列車だと宇和島着は8:37ですので、通勤通学に利用できるのはこの列車のみという方も少なくないはずです。
7:12。高知県に入り江川崎駅に到着。
行き違い待ちのため3分の停車時間があり駅前へ。
予土線の主要駅の一つですが1日の利用者は50人以下。駅前は閑散としています。
ホームの反対側に窪川始発の宇和島行が到着。
吉野生駅で行き違ったキハ54形より一回り小さいキハ32形での運転です。
キハ32形は、国鉄が分割民営化される直前に四国地方のローカル線向けに製造された小型ディーゼル車で、
実は乗車しているホビートレインの種車でもあります。
こうして横に並んだ原型の32形と改造後のホビートレインの姿を見比べると、
ボビートレインは前面、側面の窓やドアには手を加えず、パーツの付加と塗装変更程度の最低限の手間とコストで製造された改造車両であることがわかります。
江川崎から南の高知県内区間は清流四万十川に沿って進みます。
車窓は美しい予土線の高知県区間ですが、利用者は少なく列車本数は先述のように1日僅か4往復。
窪川方面への通勤通学に予土線を利用しようとしても、朝は乗車中のホビートレインが始発列車で窪川着は8:09。次の便は4時間後。
夕方の帰宅に使えるのは窪川駅発17:40のみでそれが最終列車という状況です。
江川崎の次の駅は半家と書いてハゲと読みます。
この地に住み着いた平家の落ち武者が、源氏の追手から逃れるために、平の文字の横線を移動させたのが地名の由来と言われています。
なおこのハゲ駅のお陰で、単独では何の変哲もない?JR東海御殿場線の上大井駅が珍駅名扱いされることもあるようです。
駅名ばかりが注目される半家駅ですが、写真でもわかるように、隣接道路との高低差が大きく長い階段を登り降りしないと利用できない構造になっている点が気になります。
大正時代に宇和島近郊区間が開通した予土線ですが、その後昭和28年に江川崎まで延長され、高度成長末期の昭和49年になって若井までの全線が開通しました。
発達した土木技術に物を言わせて敷かれた江川崎〜若井間の線路は線形がよく、列車は最高時速の85kmに達する快走を続けますが、
この区間の沿線人口は元々多くないうえ、開通を迎えた昭和49年の時点で、地方における交通の主役はすでにマイカーになっていました。
多少なりとも需要がある宇和島近郊区間では、軽便鉄道由来の貧弱な線形で、区間によっては原付バイクなみの低速走行を強いられるのに対し、
高度成長期以降の開通で速達性を発揮できる区間は利用者が極端に少ないというのは皮肉な話です。
鉄道は構想、計画から開通まで数十年かかることも珍しくなく、その間の社会情勢の変化を正確に予測し需要を見通すことは容易ではありません。
そしてそれは、これからの鉄道建設計画にも当てはまり、四国にもある新幹線構想もその例外ではないでしょう。
予土線には「しまんとグリーンライン」の愛称が付されています。
四万十川が緩やかに蛇行している箇所では川に沿って進みますが、
蛇行が大きいところでは「トンネルで川沿いの山を貫通し鉄橋で川を跨ぐ」という、まさに新幹線のような線形になっている区間もあります。
土佐大正駅。
ここも予土線高知県内区間の主たる駅の一つですが、10年前の2011年には100人を越えていた駅利用者数は最近では30人程度まで減少しています。
窪川の一つ手前の若井駅付近からは第3セクターの土佐くろしお鉄道線を走行し終点の窪川駅へ。
8:09。終点の窪川駅に到着。
宇和島から窪川までの運賃は若井駅までのJR区間が1660円、若井〜窪川の土佐くろしお鉄道区間が210円で計1870円となります。
その金額でも宇和島近郊の地元利用(往復)の4人分くらいになる計算ですが、
3大都市圏など沿線外から予土線を訪問しようとすれば、四国まで飛行機を利用したとしても、空港からは松山〜宇和島や高知〜窪川間でJR四国の特急利用となる場合が多いと思われ、
JR四国が予土線にホビートレインのような注目列車を走らせる狙いはその点にあると見て間違いなさそうです。
またJR四国は「JR四国全線○日乗り放題」という企画切符を多数発売していますが、予土線がなければ鉄道だけで四国を周遊することが難しくなり、それらの売上にも影響があるかも知れません。
予土線は輸送密度の数値だけ見れば、宇和島近郊区間も含めバスで代替できないことはないと個人的には思いますが、
路線単独の輸送密度だけで存在価値を判断できない要素も多い路線とも言えそうです。
窪川駅舎。
駅から徒歩10分の距離には四国霊場88箇所の37番札所岩本寺があります。
今回は窪川から高知方面の特急に乗り継ぎましたが、窪川駅で高知方面の時刻表を見ると7:41に特急あしずり4号が発車したあと、
10:04の特急あしずり6号まで約2時間以上、普通列車も含め列車がありません。
沿線外からの利用で予土線を支えようとするなら、
地元利用が少ない土曜休日だけでも予讃線、土讃線の特急との接続を重視したダイヤにするほうがよいのではないか。
という気がしないでもありません。
特急あしずり6号の到着まで2時間を過ごした窪川駅舎内。
コンセント完備のラウンジがあり思いのほか快適に列車待ちの時間を過ごせたのは幸いでした。
最後までお読みいただきありがとうございました。