JR西日本和歌山駅。午前8時半。
今回はここから、JRの特急くろしお号と特急南紀号を乗り継いで紀伊半島を周り、三重県の多気駅から鳥羽までJR東海の快速みえ号で移動。鳥羽からは近鉄の観光特急「しまかぜ」に乗り継ぎ三重県の四日市へ向かいます。
時刻表の地図で辿るとこのようになります。
和歌山駅から乗車する特急「くろしお1号」は新大阪始発で和歌山駅の発車は8:48。
特急くろしお号の乗車位置案内。
以前くろしお号のヘッドマークとして使われていた絵柄が使われています。
和歌山駅4番線に進入する287系特急くろしお1号。
くろしお1号に使われる287系は、途中停車駅の白浜駅に近い「白浜アドベンチャーワールド」とのコラボレーションで「パンダくろしお」編成となっており、市販の時刻表にもその旨の記載があります。
車体側面も。
車内客室の出入り扉も。
普通車の枕カバーもパンダづくしです。
今回はグリーン車を利用します。
こちらはパンダは控えめのようです。
特急くろしお号のグリーン車は横3列の大きなシートを備え、車内はグリーン車に相応しい風格が感じられますが、
JR 西日本が発行するクレジットカードJWESTカード会員向けに発売される切符の割引率が他の特急列車より高いという事実は特筆に値します。
今回の紀伊勝浦までのグリーン特急券は3350円(内訳:特急料金1250円、グリーン料金2100円)で購入しました。
そのような事情もあってか、和歌山発車時点でグリーン席は15席中10席程度が埋まっていました。
東海道新幹線の普通車でさえガラ空きも珍しくないコロナ下にあって異例のことではないでしょうか。
和歌山駅を発車した列車はしばらく市街地をすすみます。
この付近では車窓左手の山の中腹に西国33霊場の一つ紀三井寺の仏搭が見えます。
10分程走って、2面4線の高架駅という近代的な姿の海南駅に到着。
海南を発車すると、しばらく列車は田園と里山の風景のなかを走ります。
このあたりで特急くろしお号の来歴について少々書かせていただきます。
特急くろしお号は、昭和40年に紀伊半島を周る紀勢本線経由で、大阪・天王寺と名古屋を結ぶ長距離特急としてデビューしました。
当時の紀勢本線は非電化だったためディーゼル車両での運転でした。
昭和44年の時刻表(くろしお1号は右端)
(天王寺9:10発、和歌山10:02発、紀伊勝浦13:19発、終点名古屋17:52着)
その後、昭和53年に和歌山~新宮間が電化されると、天王寺~新宮間の運転となり、車両は振子式の381系電車に置き換えられ所要時間の短縮が図られます。
今回乗車する287系は、その381系を置き換える目的で平成24年からくろしお号の運用に入ったものですが、
平成8年には制御振子を搭載し381系以上にカーブを高速で通過することができる283系も投入されています。
283系で運転される便は愛称も「オーシャンアロー」として区別されていましたが、現在は「くろしお」の一部として活躍を続けています。
海南から約30分が経過、9:30御坊着。
JR御坊駅の片隅からは御坊市の中心部とを結ぶミニ私鉄「紀州鉄道」のディーゼルカーが発着しています。
振子装置を搭載していない287系の場合、紀伊田辺以北の比較的線形の良い区間でも80km/h程度で走行する区間が長く、特急列車としては必ずしも速くはありません。
制御振子を搭載した283系や先代の381系に比べ、時刻表上の所要時間も、今回乗車する和歌山~紀伊勝浦の場合で10分程度余計に見積もられています。
特急列車の車両更新により所要時間が延びるという事例は他に思いつきません。
和歌山周辺の市街地を抜けてから約1時間、海に近いところを走っているにも関わらず、田園や里山の風景が続いた特急くろしお号の車窓でしたが、
岩代駅(御坊~紀伊田辺)付近で、ようやく雄大な太平洋の風景が広がり、
車内では車窓案内の放送が入り、また景色を楽しめるよう徐行運転のサービスもありました。
列車はみなべ町の市街地に接近。
くろしお1号は、みなべ町内の駅にはとまりませんが、一見して観光利用が主体とわかる客層への配慮か、
「みなべ町は南高梅や紀州備長炭で知られ・・」と、ここでも観光案内放送がありました。
10:00。列車は田辺市内に入り和歌山以南では最大の拠点駅となる紀伊田辺駅に到着。
和歌山からつづいた紀勢本線の複線区間はここで終わり、
これより先は線形もより厳しいものになるため、381系で運転されていた当時から「くろしお号」の平均時速は紀伊田辺駅を境に大きく低下していました。
紀伊田辺を発車して約10分。南紀観光の中心「白浜」に到着。
グリーン車では動きは少なかったものの、普通車からは大勢が下車したようです。
くろしお号で到着する観光客を迎える白浜駅の改札口。
白浜駅を発車してしばらく、列車は富田川にかかる鉄橋を渡ります。
上流に目をやると高架道路がみえますが、付近には紀勢自動車道の南紀白浜ICがあります。
紀勢自動車は現在、すさみ南ICまで延伸されており、
紀伊田辺以南での高速運転が難しい「くろしお号」の利用状況に影響を及ぼしています。
10:33。周参見(すさみ) 着。
周参見駅ではホームに隣接して津波避難タワーが設けられていました。
グリーン車・普通車問わず、特急くろしお号の座席ポケットには、津波が予想される場合の避難手順を記した注意書きが入っています。
デッキには注意書きに記述のある車外脱出用の避難用はしごも準備されていますが、
発生が想定されている南海トラフ地震では、くろしお号が通る串本の津波到達予想時間が地震発生から4分とされていることを知れば、
海外の鉄道車両やバスのように、脱出のために近くの窓ガラスを叩き割るハンマーを窓横に設置したり、
航空機のように各座席下に救命胴衣を設置するほうが、現実的ではないか。という気もします。
参考 ドイツの高速列車ICEの車内。
写真に写っている範囲だけでも4箇所に赤いハンマーが設置され、ハンマー近くの窓には脱出口となることを示す緑のステッカーが見えています。
見老津駅付近。
線路は半島の付け根をトンネルで横切ったりせず、急曲線で、入り組んだ海岸線を忠実にトレースするように伸びています。
田並駅では対向の普通列車が行き違い待ち。
この付近の普通列車は長らく国鉄型105系の活躍が続いていましたが、写真の227系への置き換えが進んでいます。
11:07。北緯33度28分。本州最南端の駅「串本」に到着。
和歌山から2時間20分。始発の新大阪からだと3時間30分程度かかった計算です。
11:15古座に停車。
比較的小さな駅にも停車しますが乗車・下車はほとんどありません。
岩場が目立つ車窓の海岸を見ていると、海面と列車が走っている線路の高低差は僅かのようです。
ひとたび大きな地震が起これば、この美しい海が地元住民や列車で旅する人の命を奪いにくるのかと思うと複雑な気持ちになるものです。
単線一面の太地駅を発車すると次は下車駅の紀伊勝浦。
11:40紀伊勝浦に到着。
列車は終点の新宮へ向け発車していきました。新宮までは18分の道のりです。
紀伊勝浦駅舎。
紀伊勝浦からは約40分後の12:23に発車する特急南紀6号名古屋行に乗り継ぎました。
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