山口県萩市。JR西日本山陰本線東萩駅。隣には萩駅もありますが、ここ東萩駅が萩市の玄関の役割を果たしています。
さて今回はここ東萩駅から観光列車「〇〇のはなし」に乗車し終点の新下関駅へ向かいます。
「〇〇のはなし」は、午前に山陽新幹線・山陽本線の新下関駅から下関駅を経由して山陰本線に入り東萩駅まで運転され、午後に東萩から新下関に戻るダイヤになっています。
「○○のはなし」の列車種別は「快速」で、全車普通車扱いですので、普通乗車券に座席指定券を追加するだけで気軽に乗車することができます。
改札口を抜けホームへ。
新下関行「○○のはなし」の東萩駅発車時刻は14:13です、
車両は、国鉄末期に非電化路線でも比較的需要がある路線の普通列車むけに導入されたキハ47系2両編成を観光列車として改造したものです。
車内へ。
幕末・開国~明治維新の時代に多くの志士を輩出した長州「萩」を目的地とする観光列車ということで、
下関寄りの1号車は「西洋が憧れる日本」がコンセプト。
和室のような内装で床の一部には畳も使われています。
全体として和食レストランや寿司店を連想させるインテリアです。
一方、東萩寄りの2号車は「日本が憧れた西洋」がコンセプトで、
レンガ造りをイメージした壁面に革張りのソファーが並びます。
2号車の車端にはグッズ・お土産の販売カウンターのほか、乗車記念スタンプが設置されています。
今回は1号車の1人席を希望していましたが、あいにく満席で、2号車の2人掛け席に落ち着きました。
なお「〇〇のはなし」の座席指定については、1.2号車とも座席と窓枠の相性が良い席、悪い席が存在します。
JR西日本HPの「〇〇のはなし」の詳細を紹介するページには、窓枠の位置と座席番号が一目で分かる親切な座席図が掲載されているので事前に確認しておきたいところです。
座席の足元は広くコンセントも設置されています。
14:13東萩駅を発車。
およそ4分で萩駅に停車。萩駅は萩市の中心からは離れているものの、よく整備された木造駅舎が美しく一度途中下車する価値のある駅です。
萩駅舎(2016年撮影)。登録有形文化財に指定されています。
萩を発車すると列車は日本海に沿って進みます。
2号車の座席はすべて日本海を望む方向に向いています。
日本海に向かって後方になる座席からは写真のようなアングルで車窓を眺めることになります。
今回は日本海側の窓に面した座席ばかりが埋まり後方席は全て空席でしたが、
後ろへ下がる分、複数の窓から広角で車窓を楽しむことができるメリットもあり、一概にどちらのほうが眺めが良いと断じることはできないように思います。
萩駅から約30分。長門市駅に到着。
列車はここで進行方向をかえ、わずか2.2Kmの行き止まり路線である山陰本線仙崎支線に入ります。
長門市駅での乗降は仙崎支線を往復して戻ってきてからとなり、1回目の停車は進行方向転換のための運転停車となっています。
右が萩から辿ってきた山陰本線、左がこれから進む仙崎支線です。
仙崎支線は普通列車のみ1日6往復の運転で終点仙崎まで途中駅はありません。
仙崎駅の1日の利用者数は45人。
「よくぞ廃止されずに残っているものだ」と個人的には思ってしまいますが、
独立した路線ではなく山陰本線の一部という扱いが奏功しているのでしょうか。
折り返しとなる仙崎駅では、30分の停車時間があります。
車内では希望者に仙崎駅周辺の観光地図が配られました。
30分の停車時間で訪問できそうなのは、
仙崎出身の童謡詩人金子みすゞ氏を紹介する「金子みすゞ記念館」と、
海に面して建つ道の駅「センザキッチン」あたりになりそうです。
長門市駅から約4分。
地図を眺めている間に行き止まりの仙崎駅に到着。
仙崎駅舎。
仙崎駅前から「センザキッチン」に続く道路。
地図を眺めながら、
郷土の偉人を紹介する記念館を訪問しても滞在時間はせいぜい10分程度しかとれず、慌ただしく退出して駅に帰ってくることになりそうであり、
「そういう訪問の仕方が歓迎されるだろうか」などと考え、
「センザキッチン」へ行くことにしたのですが、他のお客さんも皆同じ結論になったようです。
仙崎駅から徒歩5分かからずにセンザキッチンの入口に到着。
道の駅に加えインフォメーションセンターや観光船のりば、
海に面したウッドデッキなども併設され1時間の滞在でも退屈することはなさそうです。
今回は5分程の余裕を持って列車に戻ることができましたが、
もう10分〜15分くらい停車時間が長ければ「センザキッチン」での買い物も増え、「金子みすゞ記念館」訪問という選択をする乗客も増えるのではないか。
というのが個人的な感想です。
「センザキッチン」で購入したお寿司。
寿司ですがシャリは酢飯ではなく「おから」で、当地では「きずし」と呼ばれているようです。
調べてみると西日本では愛媛県西部にも同じような郷土レシピが存在するようです。
列車は仙崎支線を折り返し、15:31長門市駅に戻ってきました。
今度は時刻表上にも記載のある正式な停車であり、改札前ホームからは「歓迎」の旗を持ってのお出迎えもしていただきました。
なお「〇〇のはなし」の今回の乗車区間(東萩〜新下関)の乗車券を購入する際、
仙崎支線往復分の運賃について、
JRの規則を厳密に運用すれば「東萩〜仙崎と仙崎〜新下関のように分割購入するか、東萩〜新下関を通しで購入した場合は、別途長門市〜仙崎往復の乗車券が必要になるはず」と思い、
購入駅の「みどりの窓口」で尋ねたところ「JR側がそのような経路で運行しているので仙崎支線区間の運賃は不要」との回答をいただきました。
ネット情報によれば明文規定まではないようですが、JR事実上公認の「タダ乗り」区間で途中下車観光までできる。という事例は他に思いつきません。
駅ホーム設置の「〇〇のはなし」運行経路図。
長門市に戻り山陰本線に復帰した「〇〇のはなし」は本州最西端の海岸線に沿って下関方面へ進みます。
長門市を発車してしばらく、日本海に浮かぶ「青海島」を望むビュースポットで一旦停車。
青海島は周囲40km。大自然によって造られた洞門や石柱などの奇岩、怪岩が数多く存在することで知られます。
本土とは仙崎市街から続く青海大橋によって車での往き来が可能です。
16:15頃。列車は長門市域から下関市に入り阿川駅に到着。
阿川駅にはカフェ「Agawa」が最近開業しています。
新下関行の「○○のはなし」は6分程度阿川駅に停車。
テイクアウトで車内持ち込みというお客さんも多いようでした。
阿川に続いて、16:27特牛に停車。
読みは「とっこい」ではなく「こっとい」です。
全国屈指の難読駅として知られる駅です。
16:33滝部駅に停車、
新下関行「○○のはなし」は、阿川駅から先の下関市内区間については、快速列車らしく淡々と進んでいく印象です。
「〇〇のはなし」という変わった列車名の由来は、列車の走行区間の3自治体「萩市」「長門市」「下関市」の頭文字を取ったものですが、
実際に乗車してみると、3者は並列の関係と言うよりは、
下関市や対岸の北九州市など関門海峡周辺を訪れる多くの観光客を、下関市と同じ山口県内の「は」や「な」に引っ張り混むという「動線作り」と、
下関近郊以外では芳しいとは言えない山陰本線の利用促進という2つの役割が期待される観光列車という背景を個人的には感じました。
本州最西端。関門海峡の北西に広がる海域は「響灘」と呼ばれます。
列車は響灘を望むビュースポットで再び一旦停車。
時刻は17時前。乗車した9月下旬では日没には少し早かったものの、これからの季節は、この付近で日没時刻を迎えるものと思われます。
16:58。下関近郊区間の入口にあたる小串駅に停車。
先述のように運賃に座席指定券を追加するだけで気軽に乗車できる「〇〇のはなし」ですが、
小串駅からは19分前と17分後に当駅始発の下関行の普通列車が設定されており、地元利用との混乗は極力回避されているようです。
17:03。川棚温泉駅停車。
川棚温泉駅を発車すると次の停車駅は下関。
沿線はしだいに都市近郊らしい風景に変わっていきます。
下関の一つ手前の駅であり、京都から続く山陰本線の終点でもある幡生で運転停車。
下関までの最後の一駅間は山陽本線を走行します。
17:39下関着。
これから下関周辺を訪れる観光客や北九州、福岡方面へ帰る方はここで下車となります。
17:43。下関駅で半数以上の客が下車した「○○のはなし」は、進行方向をかえて山陽本線を折り返し新下関へ向かいます。
幡生に停車しない列車を利用した結果、幡生~下関間が重複乗車となる場合については、下関駅で途中下車しない限りその区間の運賃は不要となります。
仙崎支線とは違い明文規定があり市販の時刻表にもその旨の記載があります。
幡生を通過すると東萩から辿ってきた山陰本線が分岐していきます。
同じ長大幹線でも全線が複線電化(一部複々線)の山陽本線にくらべ、山陰本線の大半はローカル線とかわらない単線非電化であり、廃止のはなし(公式ではない噂や危機感の類)がささやかれている区間も存在します。
17:50。山陽新幹線の高架駅舎が頭上を覆う新下関駅終点に到着。
山陽新幹線の新下関駅はこだま号のみ停車が基本ですが、「〇〇のはなし」到着から18分後の18:08に、ひかり号相当の「さくら566号新大阪行」が停車し、乗り継ぐと姫路20:02、新神戸20:19、新大阪20:32に到着することができます。(2021年9月現在のダイヤです。)
最後までお読みいただきありがとうございました。