開湯1300年。京阪神からを中心に多くの観光客が訪れる兵庫県豊岡市の城崎温泉。
その玄関であるJR城崎温泉駅。
城崎温泉駅には、京都から山陰本線経由の特急きのさき号が、神戸、姫路からは播但線経由の特急はまかぜ号が、
そして大阪からは福知山線経由の特急こうのとり号が直通で乗り入れています。
参考 大阪から城崎温泉駅に到着した特急こうのとり号。
城崎温泉駅前の全但バス乗場。
城崎温泉〜大阪・神戸間には高速バスも運行されています。
今回はこちらを利用し大阪へ向かいます。
バス停の時刻表によれば、コロナ禍の現在大阪便が1日6往復、神戸便は1日3往復の運行。
大阪便の場合、大阪梅田までの所要時間は3時間20分程度と、同じ区間を走るJRの特急こうのとり号より30分程余計に時間がかかるのですが、
最近、この城崎温泉〜大阪路線に昼行バスとしては国内初となる、完全個室席を備えた特別車両「ラグリア」が投入されました。
今回は、城崎温泉駅発大阪行の6便のうち12:00発の便に「ラグリア」が充当されることを確認し、
2室ある個室席の1室を発車オーライネットから予約しました。
城崎温泉駅〜大阪梅田の通常運賃は3800円ですが、個室席にかかる追加料金は1000円のみ。
計4800円はJR特急の普通車指定席より安く、
航空を引き合いに出せばJALの上級席クラスJを利用する感覚で気軽に利用することができます。
駅前バス停に隣接する足湯施設「さとの湯」に横付けするように停められた全但バス「ラグリア」。
12:00の発車時刻が近づくと、この場所でドアが開放され運転手さんの乗車前の検札が始まります。
発車オーライネツトのWEB乗車票を提示して車内へ。
後方に向かって右手に壁に囲まれた個室席が見えます。
個室入口のドアを開けて室内を撮影。
単に個室となっているだけでなく、座席も幅広でリクライニング角度の大きいものが設置されていました。
昼行バスでは初めての個室席とのとこですが、
キングオブ夜行高速バスとして知られる東京〜博多間の「はかた号」に設置されている個室席(利用経験あり)と大差ない広さがあるように見えます。
室内に入り座席背面から撮影。
このように座席背面には、回り込んで撮影できるだけのスペースがあります。
荷棚には手が加えられていないため、荷物は一旦ドアを開けて外に回らないと荷棚に収納できませんが、
座席後ろのスペースを利用すれば邪魔になることもなさそうです。
もっとも、大きな荷物は他の一般席を利用するときと同様に、床下のトランクルームで預かってもらうこともできます。
座席脇にはコンセント、USBポート、室内灯イッチなどが備わります。
12:00。定刻に城崎温泉駅前を発車。
座席前面の大きなモニター。
備え付けのリモコン操作で、バスの車体に複数設置されたカメラからの映像を楽しむこともてきます。
個室席利用者は、乗車時に運転手さんから手提げ袋を手渡されます。
中身は消毒スプレーとスマホ?ARグラス?
個室備え付けの案内によれば、目の前のモニターと接続することで、
城崎温泉など但馬地方の観光地の臨場感ある画像を楽しむことができる趣向のようです。
期間限定のサービスと断りがあり、個人的には「折角のバスの旅なのだから車窓を楽しみたい」という思いもあって、
今回は使わずじまいでした。駅前を発車したバスは、しばらく城崎温泉の温泉街を走り、
円山川沿いの幹線道路へと進みます。
川と反対側にはJR山陰本線が通っています。
12:00発の便ということで早速、座席前の大きなテーブルを引き出し昼食。
本日の昼食は乗車前に購入した城崎温泉駅の駅弁(かにめしとすきやき弁当)です。
弁当箱下から出ている紐を引抜くことで化学反応を起こし、5分程で湯気が立つ程に弁当が温まる仕組みになっています。
開封。
名前のとおり「かにめしとすきやき」だと思ったら、実は「かにめし」と「すきやきめし」だった?
個体差があるのかも知れません。
なお特急列車や新幹線の座席に備わるものに近いサイズのテーブルは、
よく考えてみると、これまでバスでは見た記憶がありません。
このサイズなら、弁当を広げるだけでなく、パソコンや書類を広げて作業することもできそうです。
こうして改めて写真を見返すとコンセントも非常に都合の良い場所に設置されていることがわかります。
城崎温泉が位置する豊岡市はカバンの街として知られます。
城崎温泉駅を発車して約20分。バスはその中心市街地に入ります。
12:20。豊田町バス停に停車。
JR豊岡駅とは1km程離れています。
城崎温泉駅発車時点での乗客は10人程でしたが、豊岡市街地のバス停に停車するたびに数人づつの乗車が見られました。
市街地を抜けたバスは再び円山川に沿って南下します。
道路脇に立つ北近畿豊岡自動車道の看板。
北近畿豊岡自動車道は舞鶴若狭自動車道の春日JCTから分岐し但馬地方へと延びる高速道路で順次延伸されており、
2020年には豊岡市内但馬空港近くまで達しています。
城崎や豊岡と神戸大阪を短時間で結ぶことに徹するなら、早々に高速道路に入るほうが所要時間の短縮につながるはずですが、あえて下道を通るのには理由があるようです。
12:50。バスは円山川の堤防道路から反れ、JR八鹿駅前へ。
駅前バス停に隣接してバス利用者向けの駐車場があり、豊岡市街地に続き、ここでも5人ほどの乗車がありました。
八鹿駅から先も一般道路を進み、
13:13。城崎温泉駅から約1時間10分でJR和田山駅前に停車。
隣接する和田山駅にはライバルのJRの特急列車の姿も見えます。
ここでも乗車があり、もう一室の個室席のほか、一般席も半分以上が埋まったようです。
一大温泉地と大都市を結んでいる路線ですが、観光客が圧倒しているということはなく、
週末でも但馬地方と大阪を所用で行き来する方の利用のほうが多いという姿が垣間見えました。
和田山ICからようやく北近畿豊岡自動車道へ。
和田山ICは姫路方面への播但自動車道と北近畿豊岡自動車道の分岐点でもあります。
バスは北近畿豊岡自動車道を春日方面へ。
北近畿豊岡自動車道に入って数分、バスは遠阪トンネルに入ります。
全長2585mの遠阪トンネルは、兵庫県を構成する摂津、播磨、淡路、但馬、丹波の旧5国のうち、但馬と丹波を繋ぐトンネルで、北近畿豊岡自動車道のなかでは最も早い1977年に開通しました。
城崎温泉から大阪方面へ向かうJRの特急が一旦兵庫県を抜け京都府の福知山を経由して福知山線に入るのに対して、
バスは遠阪トンネルを通ることで、JRの特急停車駅で言えば和田山から福知山線の途中駅柏原方面へショートカットしている形になっており、
終点大阪の手前まで兵庫県から出ることはありません。
遠阪トンネルを抜け丹波地方に入ったバスは青垣ICで一旦高速を降り、
ICに隣接する道の駅「あおがき」へ。
ここで約10分の休憩となります。
道の駅「あおがき」に停車中の「ラグリア」。
10分程度と短い休憩時間のため、道の駅の施設で買い物を楽しむのは難しそうです。
筆者はトイレだけ済ませすぐに車内に戻りましたが、
どうしても飲食物など購入したい場合は、道の駅の目の前にコンビニがあるのでそちらを利用する方が便利かも知れません。
なお「ラグリア」の車内にもトイレがあります。
一般的な高速バスのトイレが、最後部の右半分、または中央付近の階段を降りた先の狭いスペースに設けられることが多いのに対して、
「ラグリア」のトイレは最後部の全幅がそのスペースに割かれています。
トイレ内部を覗いてみるとバス車内のトイレとしては非常に広く清潔な空間が広がっていました。
この快適なトイレは個室利用者専用というわけではなく、
追加料金がかからない一般座席の利用者も使うことができます。
13:50。道の駅での休憩を終えたバスは、青垣ICから北近畿豊岡自動車道に復帰。
遠阪トンネルで分水嶺を越えたバスは、日本海に注ぐ円山川にかわり、瀬戸内海に注ぐ加古川としばし並行します。
この付近の加古川堤防は約5km、1000本もの桜並木が続く名所として知られています。
春日ICで再び高速道路から流出。
IC隣接の春日ICバス停に寄ったのち再び高速道路へ。
春日ICは北近畿豊岡自動車道と舞鶴若狭自動車道の分岐点にもなっており、
バスはここから舞鶴若狭自動車道を南下します。
舞鶴若狭自動車道の兵庫県区間は全線が片側2車線で、北近畿豊岡自動車道に比べ行き交う車の数も目に見えて増えます
和田山から京都府の福知山をショートカットして春日ICに達したバスですが、
この先もJR福知山線が加古川線接続の谷川へ迂回するのに対し、
舞鶴若狭自動車道を走行するバスはトンネルで、JRで言う篠山口駅方面へと直線的に抜けていきます。
(青線=JR特急こうのとり号 赤線=全但バス城崎温泉駅→大阪梅田走行ルート)
和田山までは下道で特急列車の倍近い時間を要したバスですが、
高速道路に入り速度の向上とルートの優位でJR特急との所要時間差を詰めていきます。
兵庫県三木市の吉川JCTからは中国自動車道に進入。
沿道はまだ長閑な風景が広がりますが、道幅は片側3車線となり大都市が近づいていることを実感。
中国自動車道区間には、西宮北IC、宝塚ICの降車専用停留所がありますが、今回は下車客はなく通過。
池田ICで中国自動車道から流出。
池田ICからは降車専用の千里ニュータウン停留所を経て、新御堂筋経由で終点大阪駅へ向かいますが、
今回は池田ICから千里ニュータウンにかけて渋滞にはまってしまいました。
15:30。 ようやく千里ニュータウンバス停に到着。ここで数人の下車がありました。
道路状況によっては、池田から阪神高速池田線で梅田に直行するほうが早いのではないか。とも思いましたが、
迂回や一般道走行の先にあるバス停で乗車があり下車がある。
所要時間とそれらのバス停の需要を天秤にかけた結果として、現在の運行ルートがある。ということが今回の乗車ではよく実感できました。
千里ニュータウンから北大阪急行、大阪メトロ御堂筋線と並行する新御堂筋は順調に流れ、
15:40。淀川橋梁を通過。
15:48。定刻より30分遅れて大阪梅田阪急高速バスターミナルに到着しました。
下車間際に無人になった一般席の4列シートも撮影しましたが、
広いシートピッチに小さなテーブルもついており、
先程覗いた広いトイレとともに「個室席を利用するのでなければ他の車両で運転される便でもサービスは同じ」と考えるのは早計のようです。
件の手提げ袋を運転手さんに返却して降車。
今回は渋滞の影響もあり城崎温泉駅から4時間近い乗車時間となりましたが、
高速に乗る手前の和田山からだと2時間半、所定ダイヤなら2時間程度とJR特急と互角の速達性があります。
大きな割合を占める地元利用に配慮する結果として一般道走行区間が長くなり、
城崎温泉へ向かう観光客にとっては所要時間がやや延びているという印象もありますが、
運賃は先述のように、個室席追加料金を払ってもなおJRの特急より安く、
結果として「昼行バスでは国内初の豪華座席を格安で長時間楽しめる」という現状を見逃す手はありません。
「城崎へはいつもJR」という方も、一度バスの乗り心地を試してみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。