今回はまず食べます。
南海電鉄なんば駅に隣接する南海電鉄系の商業施設「なんばCITY」内の杵屋に入りました。
冷やし天ぷらうどんは800円台。立地を考えれば高くはないでしょう。昼時をすぎても店舗前に行列ができるのも納得です。
さて、うどんで腹ごしらえをしてから向かったのは、この「杵屋」の支援を受けて会社更生法申請から再出発した大阪府南部の地方私鉄「水間鉄道」です。
水間鉄道の始発駅貝塚駅へは「なんば」駅から南海電鉄本線の急行で約30分です。
貝塚駅に到着。
貝塚市は大阪府南部に位置し人口は約89000人。南海電鉄の貝塚駅は待避設備有する2面4線の橋上駅で利用者数は乗降合わせて2万人程度です。
水間鉄道の貝塚駅は南海電鉄の橋上駅舎に隣接した地平駅です。
南海電鉄とつながりの深い会社ですが、幹線から分岐する地方私鉄に多い、幹線駅の片隅にホームだけ間借りしているようなスタイルではなく独自の駅舎があります。
終点の水間観音駅までは5、5km、約15分、290円です。駅数は両端を含めて10駅で、平均駅間距離は約600メートルと路面電車ではない一般の鉄道としてはかなり短めです。
全線が単線で途中行き違いができる駅は貝塚駅から5駅目の名越駅のみとなっています。名越駅~水間観音駅の4駅間は6分程度で走行するダイヤになっていますが、貝塚駅~名越駅の5駅間は8~9分程度を要するため、折り返し時間も含めると運転間隔を20分以下にすることは現状ではむずかしそうです。
貝塚駅の発車時刻表。実際のダイヤもほぼ終日にわたって20分間隔のダイヤになっています。
ところで水間鉄道の貝塚駅に30分もいればデータを調べなくてもわかることですが、水間鉄道の利用者は今回の筆者のように南海電鉄のなんば方面(大阪都心方面)との乗り換え客が一定数を占めています。
こちらはさきほど南海電鉄の貝塚駅で下車した際に写した南海電鉄本線和歌山・関空方面の時刻表です。
なんば方面との乗り継ぎ客の多くが利用していると思われる「なんば」からの急行(空港急行)は15分間隔の運転で、20分間隔の水間鉄道とは時隔があっていません。
詳しくみると「なんば」からの急行は日中概ね毎時8分、23分、38分、53分に貝塚駅に到着します(発車時刻表ですが、停車時間が短いため到着時刻もほぼ同じです)。
貝塚駅到着後、水間鉄道の駅へ移動するのに2分かかるとすると、乗り換え客が水間鉄道の駅に到着するのは、毎時10分、25分、40分、55分となり、15分、35分、55分に発車する電車までの待ち時間は、それぞれ5分、10分、15分、0分となります。
到着列車4本分の待ち時間の合計は30分で平均待ち時間は7.5分です。
乗り継ぎではなく貝塚駅から利用する場合の平均待ち時間は10分(運転間隔の半分)ですから、時隔があわないながら接続が保たれているようにも見えます。
しかし時隔があわないというハンデは意外に大きいものです。
仮に水間鉄道の運転間隔を30分に広げて(1時間に2本に減便して)時隔を合わせた上で、発車時刻を10分と40分にすれば、南海電鉄の急行から乗り換える場合の待ち時間「()内の数値」は8分着(0分)23分着(15分)38分着(0分)53分着(15分)となり、合計30分・平均待ち時間は20分間隔の場合と同じ7.5分と計算されます。
運転間隔が短いほうが待ち時間が少なくなり乗客の利便に資するという常識が、場合によっては通用しないことの具体例であり、南海電鉄なんば方面からの乗り換え客に対しては1時間1本分の貴重な「輸送サービス」が活かせない状態が生じていると言えます。
ただ30分毎に減便すれば南海乗り継ぎではない客にとっては平均待ち時間が10分から15分に延び、時刻表を見ずに駅に行った場合に10分以上電車が来ない確率は50%から67%に上昇してしまいます。
水間鉄道としては南海との乗り換え客、水間鉄道のみを利用する乗客双方の利便と、行き違い設備からの制約を考えあわせたうえで、現状の設備では最短となる20分間隔のダイヤを設定しているのでしょう。
貝塚駅の改札付近。SUICA・ICOCAなどのICカードでの乗車も可能です。
発車時刻の5分前を過ぎて折り返し水間観音行となる列車が入線。
車両は元東急電鉄の車両を改造したもので2両編成です。乗客が入れ替わり軽く席が埋まるとすぐに発車時刻になりました。
水間鉄道の線路は、貝塚駅から2駅目の近義の里駅と3駅目の間でJR阪和線とクロスします。クロス地点に駅はありませんが、石才駅から阪和線の東貝塚駅や和泉橋本駅へ徒歩で乗り換えることができるようです。
「名越」駅で対向列車と行き違い。(写真は復路の列車から撮影したものです)
路線中間付近に1か所だけある行き違い駅で、ほとんどの列車が行き違う水間鉄道のダイヤは、ケーブルカーをイメージするとわかりやすいと思います。
貝塚駅から駅ごとに下車がつづき次第に空席が多くなります。
水間鉄道の列車はワンマン運転です。IC乗車券で乗車して途中の駅で下車する場合は、駅ではなく運転席後ろの読み取り機にタッチして下車します。
均一運賃ではない路線バスと同じ精算方法ですが、水間鉄道の場合、常時稼働している編成は2本であるのに対し中間駅が8駅あるので、読み取り機を車両に積むほうが駅に設置するよりコスパがよかったのでしょう。
JR西日本の境港線も同じスタイルでIC対応になりましたが理由も同じだと思われます。
15分で終点の水間観音駅に到着。
寺院を模した水間観音駅舎は日本の駅百選に選ばれた名駅舎です。
駅名になっている水間観音こと水間寺は駅から徒歩10分程度のところにある天台宗の寺院です。
新西国33箇寺の一つであるほか、興味深いのは南海沿線七福神の一つにも名を連ねていることです。
南海電鉄では来られないのですが、水間鉄道の増収にもなりますし、参拝者にしてみれば南海電鉄の支線に乗る感覚でなのでしょう。
水間寺は三重の搭が印象的な寺院でした。
もう少し駅を接近させられなかったのかという気もしましたが、関西では京阪電鉄石山坂本線の終点石山寺駅と石山寺も似たような位置関係にあり、昔は寺院がすぐ近くまで鉄道が乗り入れることを嫌ったのか、それとも門前商売への配慮だったのでしょうか。
駅にもどり貝塚行で折り返します。
電車の側面にはこんなラッピングがありました。
水間鉄道の輸送密度はWIKIPEDIA情報によれば4000人近くあり全国の地方私鉄や第3セクターの中では多いほうから数えたほうが早いはずです。
車内には杵屋の吊り広告がありましたが、どこか控えめな印象をうけました。
貝塚駅に到着。
南海電鉄とかわらない老若男女多彩な客層も「都会の地方私鉄」水間鉄道の特徴の一つだと思います。
先日訪問した、比較的近い地域を走り輸送密度も似通った和歌山電鉄では、身も蓋もない言い方ではありますが「終点の駅で飼っている猫一匹」をあの手この手で売り込んだ結果、外国人観光客までもが押しかけ、関連グッズの土産選びに余念がない様子を目の当たりにしました。
杵屋の吊り広告には南海沿線の店舗名がならんでいましたが、休日だけでも終点の水間観音駅にデパートとは違う業態の(立ち食いの駅そばスタイルとか)店舗を出店するなどというのは難しい話なのでしょうか。
単純に考えれば「うちの終点駅には猫がいます」というより実用的なメリットがあるはずですし、あとは売り込み方次第のような気がします。(遠来の訪問者の雑感です。)